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風前の灯火。パリ五輪の外洋ダブルス

2021/05/15 続報が出たので、加筆しました→こちら
以下は、5/12記。

2024のパリ五輪でセーリング競技の正式種目として採用されていた「Mixed Two Person Offshore Keelboat」(以下、外洋ダブルス)ですが、ここにきて採用取り消しか? という話が流れています。

どういうことなのか?

なんで今更? 外洋ダブルス却下の流れ

こちら、Offshore Doubles Sailing Association(以下、ODSA)から、まとめ記事が出ています。

Olympic Event News - Offshore Doubles Sailing Association
MIXED OFFSHORE DOUBLES OLYMPIC EVENT IN THE NEWS Click on the links to learn more World Sailing Oceanic and Offshore Committee, Recommendation Not Based On Subm...

この問題、
・なんで採用取り消しなのか?
・なんで今さら?
・外洋ダブルスは、オリンピックの正式種目として最適なのに
なんてことが書いてある記事をいくつか集めたwebページです。

ODSAは、当然ながらオリンピックでの外洋ダブルス推進派なので、その視点から集められた記事で、いかに外洋ダブルスがオリンピック種目に適しているかという記事が多くなるわけですが。
ざっと、ここに挙げられた記事を、日本語でまとめてみます。

そもそも、
外洋ダブルスが2024年のパリ五輪のセーリング競技の1種目として採用されたのが、2018年の11月。

ところが、2020年12月7日にIOCが出した、
「Gender equality and youth at the heart of the Paris 2024 Olympic Sports Programme」
という文書の中で、

The IOC EB supported the introduction of the new mixed kiteboarding and the mixed 470 – two-person dinghy events, but decided to further review the mixed offshore event in order to properly assess the key considerations around the cost, safety and security of the athletes.

The specific event proposal will be decided by 31 May 2021.

https://olympics.com/ioc/news/gender-equality-and-youth-at-the-heart-of-the-paris-2024-olympic-sports-programme

つまり、
外洋ダブルスについては、安全とコストの面での取り組みを2021年3月末までに再考することとする。
とあります。

これに対して、
World Sailing(国際セーリング連盟:以下WS)の Oceanic and Offshore Committee(以下:OOC)からは、

  • コースは、フランスの地中海側の沿岸沿い20マイル四方とし、この中を周回するコースとする。
  • セキュリティーは、フランス海軍が通常の予算内で行う。
  • 陸地に近く携帯電話の電波が届く範囲であり、安全面も報道面でもコストはかからない。

との勧告(Recommendation)をだしています。

I have just become a member. Come Join Me!
The Mission of OffshoreDoubles.org is to create a fair and robust ecosystem to build on this fastest growing segment of offshore sailing.

IOCから求められた「安全とコストの面での取り組み」への答えがこれ、ということですね。

さらにこの勧告(Recommendation)の後半には、外洋ダブルスをパリ五輪で採用することの利点がいくつも挙げられています。
WS側は、外洋ダブルスやる気満々にみえます。

ところが、2021年4月12日に国際オリンピック委員会(IOC)から、
「納得できないので、外洋ダブルスに代わる種目を提案するよう」
とのレターが、WSのQuanhai Li新会長あてに届きます。

訂正—-(2021/05/13)
ここ、時系列が違ってました。
2021/4/12にIOCからWSにこのレターが届き、WSのOOCからの「Recommendation」が出たのがその後、4/26のようです。

いずれにしても、

外洋ダブルスの不採用は決定事項で、代わりの種目を何にするか、というフェーズに入っている
ということになりますよね。

今(2021/5/12)時点では、5月14日にはWSが外洋ダブルスに代わる種目を決め、5月26日にIOCに提出。6月8日にはIOCが決定する。
という流れのもよう。

でこれが、
男女混合のカイト・ボードを1つ増やして、男子カイト、女子カイトとするか。
男女ペアの470級を、男子470と女子470の現行の2種目にするか。
男女の比率を50%50%にしなければならないので。
というところで、どうやら470の方に……という状況のようですが。

この記事の中では、IOCはマリーナ・スポーツよりビーチ・スポーツを増やそうとしているようで、カイト有利のようにも書いてあります。

いずれにしても、「外洋ダブルスは不採用」を前提とした動きに見えて、残念至極。
でも、いったいなんで今頃?

キーマンは一人

WS側も、開催地のフランス側でも、外洋ダブルスの開催になんら障害は無いという見解のようで、確かにこれまで1度も世界選手権が開催されていないというのはオリンピック種目のなかでも特に珍しいとは思いますが、これも新型コロナウイルスという特殊な状況のせいでもあり。

じゃあなんでIOCは反対しているのか。
反対の理由がハッキリしない。

この記事によると、IOCで外洋ダブルスに反対しているのは、Ser Miang Ng(黄思绵)氏。
2009年からIOCの副会長(vice-president)をしているシンガポール人だそうで。1994から4年間は、ISAF(WSの前身)の副会長で、つまりセーリング界の人で。
2016年のWS会長選挙時、ということはISAFからWorld Sailingに改名した直後の選挙ということになりますが、ここで、現会長のQuanhai Li氏(CHN)を推していたところが、負けて、Kim Andersen氏(DEN)が会長に就任します。

この辺り、筆者自身はWSの人事にはまったく興味が無かったので知りませんでした。
歴代会長はこちらに、

World Sailing - Wikipedia

で、WS会長の任期は4年。ということは、外洋ダブルスをパリ五輪種目に入れた2018年11月は、Kim Andersen会長時代ということ。
記憶では、その前のCarlo Croce会長 (ITA)も辞める間際に、オリンピックに外洋レースを入れたいと強く提言していたように思います。オリンピックに外洋レースをというのは、2代に渡る悲願だったのか。それが叶った、と。

ところが、2020年から役員が刷新されSer Miang Ng(黄思绵)氏が押していたQuanhai Li氏(CHN)が新会長に就任すると、12月に「外洋ダブルスの安全とコストの面での取り組みを2021年3月末までに再考する」
という話が出てきたわけで。

How the mixed doubles offshore event has been challenged by the IOC - Tip & Shaft
Barring a last-minute turnaround which is always possible, the mixed doubles offshore racing event, which was due to make its appearance at the Paris 2024 Olymp...

……と、上の記事では、シンガポール人のSer Miang Ng(黄思绵)IOC副会長を「外洋レース嫌いで知られた人(a known opponent of offshore racing)」とし、「Kim Andersen前会長への個人的な復讐である(the personal revenge by Ser Miang against Kim Andersen)」とも書かれています。

この記事からすると、ポイントはただこのシンガポール人のIOC副会長一人ということみたいなんですけど。
これがまた今はIOC財務委員会(finance committee)のトップで、さらに次期IOC会長を狙っている人なんだそうな。

ということから、外洋ダブルス押しのこの記事をもってしても、2024年のパリ五輪での外洋ダブルス採用は風前の灯火……というより、もう廃止決定で代わりを何にするかというフェーズに入っている、となっています。

いやー、外洋ダブルスは、オリンピックでのセーリング種目を観戦種目として大きく前進させることができるだけの魅力をもっていると思うのですが。それが、この記事にあるように、私怨と政治的な駆け引きで不採用になってしまってはほんと残念。

ただ、オリンピックフォーマットでの外洋ダブルスはまだ開催されていないというのも事実。
オリンピックはダメでも、まずはどんどん開催していくべきだと思います。

「Alternative events for Paris 2024 approved by World Sailing’s Council」 2021/05/15 加筆

WSから記事が出ました。

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WS側では、外洋ダブルスに代わる種目としては、

第一代替候補(first alternative)
 カイトボード
  これまでは男女混成で1種目だったので、これを男子カイトボード、女子カイトボードの2つに分ける。で、全10種目。

第二代替候補(second alternative)
 470
  2024パリ五輪からは男女ペアによる470で1種目、になるところを、これまでのように男子470、女子470の2つに分けて、全10種目。

の、どちらか1種目、と決定されました。
IOCとしては、WSに1と2で順番を付けさせたところがミソか。
最終的に決めるのはIOCということなら、WSに順番付けさせる意味あるのか?

先の記事にあるように、WSと主催国フランスは外洋ダブルス押し、IOCが反対している、というのは間違いなさそうです。WSのDavid Graham(CEO)は「外洋ダブルスはWSが民主的に選んだ種目で、パリ五輪での採用種目として一番に挙げている」とし、まだ外洋ダブルスは諦めていないみたいですけど。

続報を待て。


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