スポンサーリンク

ライフジャケット-浮力の話

前回の記事、

の続き。

国交省の省令改正によりライフジャケットの着用義務化が始まっている。正確にいうと、着用させる義務の範囲が拡大されたってことなんだけど。
ライフジャケットは、 “決まりだから搭載しておく” 時代から “常に着る” 時代になり。となると、”常時着用” に耐えるライジャケが各種開発され発売されるようになっている。ということは、
ライフジャケットは “選ぶ” 時代になっているということですね。

選ぶ要素はいろいろあるんだけど、今回は、浮力について。

浮力の単位は

ライフジャケット着用義務化をうけて、日本の検定品、通称 “桜マーク” のライフジャケットも各種出てきている。
昔はライフベストなんて言い方もあったくらいで、チョッキ型が主流だったけど、それ以外にも、首掛け型、腰巻き型等があるので、全部合わせてPFD(Personal Flotation Devices)とも呼ばれるようになった。OSR(Offshore Special Regurations)では……やっぱり「Lifejacket」表記になっているけど、その中で求められる規格「ISO 12402-3:2006」では、「Personal flotation devices」という記載になっている。

ISO 12402-3:2006
Personal flotation devices — Part 3: Lifejackets, performance level 150 — Safety requirements

PFDだとピンと来ない方も多いと思うので、ここはライジャケで通します。

で、このISO 12402-3は Level 150というもので、この150は浮力が150N(ニュートン)以上という意味。
一方、日本の桜マーク規格では、浮力は7.5kg以上等という記載があり。150ニュートンと7.5kg。これはいったいどう違うのか?
そもそも、浮力の単位とはなんなのか。
今回はこのあたりを掘り下げてまとめたいと思います。

質量と重量

まず、重量質量の違いをハッキリさせとく必要がある。
今は中学1年の理科で習うらしいけど。忘れてました。
改めて調べると、

ある質量の物体が、地球の重力に引っ張られる力が重量(重さ)

マウスを持ち上げて手を離せばデスクの上に落ちる。これはマウスが地球の引力で引っ張られているから。このときの引っ張られる “力” が重量(重さ)ということ。

重さの単位はkgと習ったと思うけど、あれは間違い。kgは質量の単位で、重さは “力” の単位ニュートン(N)なのです。

浮力とは、重力とは逆の方向に作用する “力” なので、単位はやっぱり力の単位であるニュートン(N)が正解です。
日本のライジャケでよく書いてある、浮力7.5kgというのは間違いってことになりますね。kgは質量の単位だから。

万有引力

じゃあ、重力とは何か?
その前に、引力について。これは、高校2年の物理で習うらしい。うん、習ったと思う。

引力は、2つの物体の質量の積に比例し、距離の二乗に反比例する

万有引力というくらいだから、すべての物体には引力がある。手にしたマウスにも引力があり、手を離すと地面に落ちるのは地球とマウスが “互いに” 引き合っているから。
隣にあるキーボードとも互いの引力で引っ張り合っているはずだけど、地球の質量が圧倒的に大きいので、キーボードもマウスもデスクトップにひっつく。机もまた、床にひっついているわけで。

引力は、「 “質量” の積」ってところがポイントですね。
質量の大きい物ほど地球との引力も大きくなるわけで。これが重量(重さ)になるわけ。で、地球と引き合う “力” の大きさだから単位はニュートン。

今の小学校の理科室にあるバネばかりは、目盛りがニュートン表示になっている「ニュートンばかり」というシロモノののようですよ。

UCHIDASウチダスニュートンはかり10N: 理科
UCHIDASニュートンはかり10N

ためしに、とあるセミナーのお手伝いをしてくれた東京大学の学生2人に「重さの単位はニュートンで習った?」と聞いたら、理系の一人は「ハイ」と当然のように答え、文系の一人は「えっえっ、ナニソレ?」とあっけにとられていましたけど。

換算すると

地球は自転による遠心力で赤道側が膨らんだ楕円体で、極半径よりも赤道半径の方が約21.4kmも大きいんだそうな。


引力は距離の二乗に反比例するので、中心からの距離が遠くなる低緯度地方にいくほど引力は小さくなる。僅かだけど。
自転による遠心力も低緯度ほど大きく、これも引力にはマイナスに作用する。
と、これらの要素を合わせた力が重力ですね。地球の重力。

ってことは、同じ地球上でも場所によって重力は多少異なる。
それだと物の重さを表現するのがヤヤコシクなってしまうので、地球の標準重力を定め、これが緯度45度の海面上で物を落としたときの加速度、9.80665 m/s2。
つまり、

質量1kgの物体は、地球上では重さ9.8ニュートン

になる。……ということのようです。
月の上では重力が地球の1/6なので、同じ質量のものでも重さは1/6になる、ということ。

ところが、ここまでを小学生に理解させるのは難しく、しかし物の重さについては小学生なら教えとかないと、スーパーで買い物もできない。ということで、学校の先生も苦労しているのでしょう。
「重さ」じゃなくて最初から「質量」にしとけば良かったのにね。

昔の体重測定では天秤ばかりみたいなの使ってましたよね。あれは、一定の質量の分銅を左右に動かして釣り合いをとり細かな数値を出す天秤ばかりなので、重さじゃなくて質量を測ってます。同じはかりでも、バネばかりは重量を測るのでニュートンはかり、と。
最近は、スマホやノートPCの仕様欄で「重さ」じゃなくて「質量」って書いてあるのもありますよね。なんか、ちゃんとしてるなと思っちゃう。

浮力7.5kgの意味

じゃあ、桜マークのライジャケにある「浮力7.5kg」というのはどういう意味なのか。

これは、『小型船舶用救命胴衣の型式承認検査基準』に、「質量7.5kgの鉄片を釣り下げて淡水に浮かべる」という項目がありまして。検査基準には浮力XXX以上、という項目はありません。

おそらくこの7.5kgは、人間の頭をイメージしていると思うのですが。質量7.5kgの鉄片を浮かせる浮力、って感じになりますか。

厳密にいうと、鉄片自体にも浮力はあるわけで。たとえば、同じ質量7.5kgでも発泡スチロールだと水中では重りにならないわけで。……と、ここから浮力として換算するのが難しいのですが。単純に、質量7.5kgを重さに換算すると、

7.5kg x 9.8 = 73.5

73.5ニュートンになります。

一方、OSRで要求される「ISO 12402-3(Level150)」のライジャケは、その名の通り浮力が150ニュートン以上と、倍以上の浮力があることになります。

逆に、150ニュートンをkgに換算すると。

150 ÷ 9.8 = 15.3

15.3kgとなります。

実際、150Nのライジャケを膨らませるとかなりのボリューム。
膨張式のライジャケは、畳んだ状態では浮力がどのくらいあるのか見た目だけではピンとこないので、この数値を参考にしてください。

コメント

タイトルとURLをコピーしました